早稲田大学 ICT・ロボット工学拠点

スーパーグローバル大学創成支援(SGU) Waseda Ocean構想
Waseda Goes Global:A Plan to Build a Worldwide Academic Network
that is Open, Dynamic and Diverse

早稲田大学

講演者/Speakers

古屋 晋一

ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー・プロジェクトマネージャー

ダイナフォーミックス

数世紀に渡り,音楽家の超絶技巧は世界中の聴衆を魅了してきました.楽器演奏は,身体の多数の関節を協調させたり独立に動かしたりすることが求められます.そのため,どのような生体力学的機序が超絶技巧を可能にしているのか,また,どのような神経可塑的機序が超絶技巧の獲得,洗練,喪失,再獲得という4つのステージの遷移と関わっているのかを解明することは容易ではありません.これらの問いに答えるべく,我々はこれまでに,ロボット工学の概念やテクノロジーの恩恵を被り,それらを神経生理学の考え方や手法と組み合わせた医工芸連携アプローチによる研究“ダイナフォーミクス”に取り組んできました.本講演はロボット工学を利活用して音楽演奏技能について調べた4つの研究について主に紹介します.一つ目は,剛体リンクモデルの逆動力学,順動力学計算を通して明らかになった,ピアニストが演奏時のエネルギー効率を最適化する身体運動技能について.二つ目は,力触覚機器と脳波,経頭蓋磁気刺激を組み合わせて明らかになった,ピアニストが高速かつ精緻に指を動かす体性感覚運動統合機序について.三つ目は,楽器に設置可能な小型ロボットにより明らかになった,局所性ジストニアという脳神経疾患を罹患したピアニストの脳内内部モデルの機能異常について.四つ目は力覚デバイスや手指外骨格エグソスケルトンを,神経科学の理論に基づいて利活用することによって可能になった,超絶技巧を促進する新しいトレーニング方法について.最後に,超絶技巧を理解し,その限界を突破する手段としてのロボット工学という新しい視座について,皆様と議論できれば幸いです.

Biography

ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー・プロジェクトマネージャー,ハノーファー音楽演劇大学 客員教授,上智大学 特任准教授,京都市立芸術大学・東京音楽大学・エリザベト音楽大学 講師.大阪大学基礎工学部,人間科学研究科を経て,医学系研究科にて博士(医学)を取得.ミネソタ大学 神経科学部,ハノーファー音大 音楽生理学・音楽家医学研究所,上智大学 理工学部にて勤務した後,現職.研究の主な受賞歴に,ドイツ研究振興会(DFG)Heisenberg Fellowship,Alexander von Humboldt財団Postdoctoral Fellowship,文部科学省 卓越研究員など.演奏上の主な受賞歴に,KOBE国際音楽コンクール入賞,日本クラシック音楽コンクール全国大会入選など.主な著書に,ピアニストの脳を科学する,ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと.これまでにウィーン国立音大,フォルクヴァング藝術大学,マギル大学,マックスプランク研究所(ベルリン,ライプツィヒ)など,国内外の研究教育機関や,Society for Neural Control of Movement (NCM),International Congress on Treatment of Dystonia,International Congress of Music Perception and Cognition (ICMPC)といった国内外の学会で招待講演およびシンポジウムを行う.ロンドン大学ゴールドスミス校にてIndustry Advisory Panel,国際学会Neurosciences and MusicにてScientific Board Memberを務める.www.neuropiano.net